介護の現場では、「昨日はすごく穏やかだったのに、今日は怒りっぽい…」「午前と午後で別人のように変わる」といった“気分の波”に戸惑うことが少なくありません。
利用者さんの感情の変化は、決して気まぐれではなく、体調・睡眠・便通・季節・環境刺激・認知症状の進行など、多くの要因が複雑に影響しています。
そのため、機嫌が悪い日があっても、それを「その人の性格」と決めつけるのではなく、背景にある理由を探る姿勢が非常に重要です。
この記事では、「機嫌の差が激しい利用者さん」と向き合うための観察のポイントと、ケアを安定させるための実践方法について詳しく解説します。
① 感情は“体調・睡眠・便通・環境”の影響を強く受ける
気分の変化が大きい方は、身体や環境のちょっとした変化が感情に直結しやすくなっています。
特に高齢者や認知症のある方は、その傾向がより強く表れます。
影響しやすい要因:
- 体調:発熱・倦怠感・脱水・痛み・食欲低下など
- 睡眠:夜間不眠や早朝覚醒はイライラにつながりやすい
- 便通:便秘・下痢・腹部不快感は機嫌に直結
- 季節の変化:気温差・湿度・低気圧が心身に影響
- 環境:騒音・明るさ・人の出入りが多い時間帯
- 認知症症状:不安・混乱・ sundowning(夕暮れ症候群)
「今日は機嫌が悪いな」と感じる日は、身体のどこかに違和感がある可能性がとても高いのです。
② 日々の小さな変化を“記録”することで原因が見えてくる
感情の波を理解するうえで効果的なのが、小さな変化を日々記録していくことです。
記録は、単に情報を残すだけでなく、“感情の変動と背景の関係性”を見つけるための大事な手がかりになります。
記録したいポイント:
- 睡眠状況(寝つき / 夜間覚醒の回数)
- 食事量
- 便通(あり / なし / 量 / 状態)
- 水分摂取量
- 天候・気温・気圧
- 活動量(レク参加・散歩など)
- 新しい環境刺激(来客・部屋替え・新人対応など)
記録していくと、次のようなパターンが見えてくる場合があります:
- 「便秘の日は怒りっぽいことが多い」
- 「雨の日は落ち込んだ表情が増える」
- 「睡眠不足の翌日は刺激に敏感」
- 「午前より午後のほうが不安が強くなる」
原因が見えてくると、「今日はこういう関わりをしたほうが良さそうだ」という判断がしやすくなり、ケア全体が格段に安定します。
③ パターンが分かると、ケアのタイミング調整がうまくいく
機嫌の波が激しい方に対しては、“タイミング”を合わせることが非常に重要です。
たとえば、機嫌が落ちやすい時間帯に難しいケア(清拭・入浴・移乗など)を行うと、拒否や混乱につながりやすくなります。
記録からパターンが読み取れたら、次のような調整が可能になります。
- 体調が安定している午前中に重要なケアを行う
- 午後に気分が不安定になりやすい場合、刺激の少ない環境を整える
- 便秘傾向がある日は声かけをゆっくり丁寧にする
- 眠れていない日は、無理な活動を避けて休息を多めに取る
このように、パターンに合わせてケアを調整することで、利用者さんもスタッフも負担が少なくなるという大きなメリットがあります。
④ “悪い日”は責めない。感情の波を“その人らしさ”として捉える
機嫌が悪い日は、どうしても介護者側が「何かしたかな?」「嫌われた?」と不安になりやすいものです。
しかし、感情の波は高齢者に限らず誰にでもあります。
特に認知症のある方は自分の感情をうまく言語化できず、表情や態度として強く出ることがあります。
そんなときは、
● 今日の“悪い機嫌”は、その人の全体像ではなく“一部分”
と捉えるのが大切です。
本人が機嫌が悪いのは、あなたやケアへの不満というより、
ただ「今はつらい」「今は余裕がない」だけかもしれません。
その視点を持つだけで、こちらの受け止め方も大きく変わり、冷静に対応しやすくなります。
⑤ チームで情報共有すると、ケアの質が安定する
感情の波がある利用者さんに対しては、スタッフ全員が同じ理解を持っていることが重要です。
共有したい情報:
- 今日の機嫌の傾向(良い / 悪い / 不安定)
- その背景と考えられるもの(便秘・睡眠不足など)
- 刺激に敏感かどうか
- 避けたほうがいい声かけ
- 安心しやすい関わり方(相性の良いスタッフなど)
これにより、
- 無理なケアを避けられる
- 機嫌が悪い日のトラブルを減らせる
- 誰が担当しても安定したケアができる
というメリットが生まれます。
まとめ:機嫌の“波”は理由がある。その理由を理解できればケアは安定する
機嫌の良い日・悪い日の差が激しいのは、本人の性格ではなく、体調・環境・認知症状など多くの要因が複雑に関係している結果です。
① 体調・睡眠・環境など多くの要因が影響する
② 日々の小さな変化を記録することでパターンが見える
③ パターンがつかめるとケアのタイミングを調整できる
④ 悪い日は“その人の全体像”ではなく“一時的な状態”
⑤ チームで情報を共有することでケアが安定する
原因の傾向が分かるほど、利用者さんに合わせた無理のない関わりができるようになり、
あなた自身の負担も確実に減っていきます。
感情の波も“その人らしさ”の一つとして理解しながら、安心できる支援を続けていきましょう。
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飲食・WEB・デザイン・出版など、様々な業界を経てきた現役のケアワーカー。介護にたどり着いたのは、大好きだった祖母の自宅介護がきっかけ。ケアチルでは、現場での視点も交えつつ、これから介護業界に携わろうとしている方、すでに業界にいて岐路に立っている方に向けて、介護業界の情報を分かりやすくお届けします。
