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※この記事は「認知症ケア・コミュニケーション」に関する介護現場あるあるQ&Aの一つです。
「本人は自宅で暮らしたいが、家族は施設入所を希望している」「本人は歩きたいのに、家族は転倒を心配している」。介護現場では、本人と家族の希望が異なることがあります。
こうした場面で大切なのは、単純に両者の意見を半分ずつ取り入れることではありません。本人の意思と尊厳を中心に据え、家族の事情も丁寧に聞き、安全性と実現可能性を多職種で検討することが基本です。
介護職が一人で結論を出すのではなく、何を確認し、どのように話し合い、記録・共有すればよいかを具体例とともに解説します。
本人と家族の希望が違うときの基本原則
介護サービスは、本人の生活や尊厳を支えるためのものです。家族の希望を大切に聞くことは必要ですが、家族が望んでいるからという理由だけで本人の意思を無視してよいわけではありません。
一方で、在宅介護を家族が担う場合、家族自身の生活や健康、介護負担も現実的な条件になります。本人の希望を尊重することと、家族に無理な介護を求めることは同じではありません。
本人の意思、健康・安全上のリスク、利用できる支援、家族の負担を整理し、本人が選択肢を理解できる形で説明することが重要です。虐待の疑いや差し迫った危険がある場合は、通常の意向調整だけで済ませず、所属先の手順と関係機関への相談を優先します。
まず本人と家族の話を分けて聞く
本人には「なぜそうしたいのか」を聞く
「家に帰りたい」という希望の背景には、住み慣れた環境で過ごしたい、ペットに会いたい、自分の役割を取り戻したいなど、さまざまな思いが考えられます。最初から実現できる・できないを決めつけず、具体的な願いを確かめます。
家族には心配の内容と負担を聞く
「施設にいてほしい」という希望の背景には、転倒への不安、夜間対応の難しさ、仕事との両立、過去の介護経験などがあるかもしれません。家族を説得する前に、何が心配なのかを具体化しましょう。
本人と家族が同席すると言いにくいこともあります。本人の同意やプライバシーに配慮し、必要に応じて別々に話を聞き、共有する情報の範囲も確認します。
認知症がある場合も本人の意思を確認する
認知症があることだけを理由に、本人に意思決定能力がないと決めつけてはいけません。説明の仕方や環境を工夫すれば、希望を表現したり選択したりできる場合があります。
- 落ち着いて話せる時間と場所を選ぶ
- 選択肢を少数に絞り、分かりやすい言葉や写真などで伝える
- 本人の言葉だけでなく、表情や行動、これまでの生活歴も手掛かりにする
- その場の返答だけで決めず、必要に応じて時間をおいて確認する
- 難しい判断は専門職や関係者と連携し、意思決定を支援する
意思を表明しにくいことと、意思がないことは別です。本人の希望を十分に確認できない場合も、これまでの価値観や生活歴を丁寧に整理し、本人にとっての利益を多職種で慎重に検討します。
よくある対立場面と対応例
本人は歩きたい、家族は転倒を心配している
「歩かせない」と一律に決めるのではなく、転倒歴、身体機能、環境、補助具の必要性を確認します。看護職やリハビリ職などと相談し、見守りや歩行補助具の使用など、本人の活動を支える方法を検討します。
家族の要望だけで行動を制限したり、安易に身体拘束を行ったりしてはいけません。身体拘束には厳しい要件と手続きがあり、事業所の判断と法令・基準に従う必要があります。
本人は自宅に戻りたい、家族は施設生活を希望している
本人が自宅で何をしたいのか、家族がどの支援を担えるのかを分けて確認します。そのうえで、訪問介護、訪問看護、福祉用具、短期入所など利用可能なサービスをケアマネジャー等と検討します。
サービスの利用条件や受け入れ状況によっては希望どおりの在宅生活が難しい場合もあります。その場合も、できない理由を具体的に説明し、本人の希望を少しでも実現できる選択肢を探します。
本人は食べたくない、家族は食べてほしい
本人が食事を拒む背景には、体調不良、痛み、飲み込みにくさ、口腔内の問題、食事の好みなどが考えられます。無理に食べさせず、急な食事量低下やむせなどがあれば看護職・医師へ報告します。
食事形態や栄養管理の変更は介護職だけで判断せず、医療職・管理栄養士等と相談します。本人の意思を確認しながら、家族には安全面と選択肢を説明しましょう。
介護職だけで抱えず、多職種で話し合う手順
- 本人の希望と、その理由を確認する
- 家族の心配、介護負担、生活上の制約を整理する
- 健康・安全面のリスクと利用可能な支援を専門職で評価する
- 本人に選択肢を分かりやすく説明し、意思を再確認する
- ケアマネジャー、相談員、看護職、管理者などと方針を共有する
- 試行する支援内容、担当者、見直す時期を決める
介護職の役割は、本人の日常の様子や希望を伝え、検討に必要な事実を共有することです。家族との調整や医療・契約上の判断を一人で背負う必要はありません。
意見がまとまらない場合は、結論を急ぐよりも、何が一致し、何が未解決かを明確にして次の話し合いにつなげます。
記録・申し送りで残すべきこと
意向が食い違う場面では、職員の印象だけでなく、本人と家族が実際に何を話したかを分けて記録します。
- 本人の希望と、その際の発言・表情
- 家族の希望、心配していること、介護負担
- 確認したリスクと専門職からの助言
- 説明した選択肢と本人の反応
- 合意した内容、未解決の点、次回の確認日
- 相談・報告した相手と日時
「家族がわがまま」「本人に理解力がない」といった評価的な表現は避け、事実と専門職の判断を区別しましょう。共有方法に迷う場合は、介護現場の申し送り・情報共有のコツも参考になります。
介護職が避けたい対応と相談の目安
- 家族の意見を本人の意思より常に優先する
- 本人の希望だけを根拠に家族へ介護負担を強いる
- 認知症を理由に本人への説明を省く
- 転倒防止を理由に独断で行動を制限する
- 職員個人の約束でサービス提供や退所方針を決める
家族から強い要求や苦情が続く場合も、まず事実を記録し、管理者や担当相談員に共有します。職員への威圧や暴力がある場合は、安全確保と事業所の対応方針を優先してください。
本人と家族の間で対立が長引いても、介護職一人の力量の問題とは限りません。職場で負担が大きくなったときの整理方法も参考に、相談できる体制を確認しましょう。
まとめ
本人と家族の希望が違うときは、どちらかを説得して終わらせるのではなく、本人の意思を中心に、家族の事情と安全上の課題を整理し、多職種で実現可能な支援を検討することが大切です。
本人が選べるように支援すること、家族の負担を見落とさないこと、決定の過程を記録して必要に応じて見直すことが、納得できるケアにつながります。
参考:厚生労働省「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」、厚生労働省「身体拘束廃止・防止の手引き」等。個別の医療判断や身体拘束の取扱いは法令・事業所の手順と関係専門職の判断に従ってください。
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飲食・WEB・デザイン・出版など、様々な業界を経験し、今は日々利用者さんと向き合う現役のケアワーカー。介護にたどり着いたのは、大好きだった祖母の自宅介護がきっかけ。
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