重度訪問介護の課題と今後の展望|人手不足・制度改定・テクノロジー導入の行方

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重度障がい者の在宅生活を支える重度訪問介護は、社会的に重要な役割を担う一方で、
現場では深刻な人手不足や制度の複雑さといった課題も抱えています。
本記事では、重度訪問介護が直面する現状の課題と今後の展望について、制度・現場・テクノロジーの観点から解説します。

重度訪問介護を取り巻く現状

重度訪問介護は、障がい者総合支援法に基づき、
常時介護が必要な人に対して24時間体制で支援を行う制度です。
全国で利用者数は年々増加しており、厚生労働省の統計では、
2024年度時点で約4万人以上が重度訪問介護を利用しています。

一方で、サービスを提供する事業所や職員の数は需要に追いつかず、
地域によっては「利用希望者に対して事業所が不足」という深刻な状況が続いています。

現場で抱える主な課題

① 人手不足と採用難

最大の課題は、人材の確保と定着です。
重度訪問介護は、夜勤・長時間勤務・単独業務が多く、
身体的・精神的負担が大きいため、他の介護職よりも離職率が高い傾向にあります。

さらに、重度訪問介護従業者養成研修修了者など専門資格が必要なため、
新規採用のハードルも高くなっています。
地方では特に担い手が不足し、利用希望者の受け入れ制限が発生している地域もあります。

② 報酬と処遇の課題

重度訪問介護の報酬単価は長時間支援を前提としていますが、
夜間や深夜帯の割増報酬を加味しても、
人件費に対して収益が十分でない事業所も少なくありません。

また、現場職員の給与水準も他職種に比べて高いとは言えず、
「責任が重いのに報われにくい」と感じる職員も多いのが現状です。
処遇改善加算による補填はありますが、根本的な待遇改善には至っていません。

③ 事業所運営の負担

重度訪問介護は、長時間シフト管理・報酬請求・加算要件の確認など、
事務負担の多さが特徴です。
特に、24時間対応の事業所では、管理者の業務が膨大であり、
人員配置・記録作成・行政報告などに追われるケースもあります。

これらが重なり、中小事業者の撤退や新規参入の減少を招いているのが現状です。

④ 利用者ニーズの多様化

利用者の高齢化・重症化が進み、医療的ケアやコミュニケーション支援など、
より専門性の高いサービスが求められるようになっています。
一方で、制度上の制限により「できること」「できないこと」の線引きが曖昧で、
現場が判断に迷うケースも増えています。

制度的な課題

① 障がい福祉制度と介護保険制度の狭間

65歳を迎えると介護保険優先原則により、障がい福祉サービスから介護保険へ移行します。
しかし、重度訪問介護のような長時間支援・医療的ケアを介護保険でカバーすることは困難です。

そのため、65歳以降も「経過的特例」で継続利用できる仕組みはあるものの、
手続きの煩雑さや地域差が課題となっています。

② 行政手続きと指定要件の複雑さ

事業所指定や加算申請には多くの書類・証明が必要で、
行政対応にかかる時間と労力が大きいのが現状です。
特に新規事業者にとっては制度の理解コストが高く、参入障壁の一因になっています。

③ 報酬制度の地域格差

地域ごとに報酬単価や加算条件が異なるため、
都市部と地方で収益性や人件費バランスに大きな差が出ています。
地方ほど採用難が深刻にもかかわらず、報酬単価が低いという逆転現象も見られます。

今後の展望と改善の方向性

① ICT・AIの導入による業務効率化

今後、重度訪問介護の現場ではICT化・AI活用が急速に進むと予想されます。
主な取り組みとしては次のようなものがあります。

  • スマートフォン・タブレットによる介護記録の電子化
  • 勤怠・シフト管理システムの導入
  • AIによるスケジュール自動最適化
  • センサーや見守り機器による安全管理

こうしたデジタル化により、管理負担の軽減と現場職員の業務効率化が期待されています。

② 処遇改善とキャリアパスの整備

職員の離職を防ぐためには、報酬アップだけでなく、成長を実感できるキャリア形成が必要です。
今後は、次のような制度整備が進むと予想されます。

  • 重度訪問介護専門資格の新設・上位研修制度
  • チームリーダー・管理職へのキャリアアップ支援
  • 処遇改善加算のさらなる拡充

これにより、「重度訪問介護を一生の仕事にできる環境」が整いつつあります。

③ 地域連携・包括ケアの推進

重度訪問介護は今後、地域包括ケアシステムの中核的存在となることが期待されています。
医療・福祉・行政が連携し、在宅支援をトータルで支える仕組みが重要です。

特に、相談支援事業所や訪問看護ステーションとの協働により、
医療的ケアや緊急時対応をスムーズに行える体制づくりが求められています。

④ 民間企業・NPOとの協働

人材確保や新サービス開発の観点から、民間・NPO・行政の連携が進んでいます。
たとえば、大学・企業と連携した「介助ロボット」「IoT見守り機器」の導入や、
地域ボランティアによる外出支援など、柔軟な形で支援の幅が広がっています。

これからの重度訪問介護に求められる視点

重度訪問介護は、単なる「介護サービス」ではなく、
利用者の生活・尊厳・社会参加を支えるライフサポートです。
今後の発展に向けて、次の3つの視点が重要になります。

  • ① 専門職としての誇り: 介助を超えた「共に生きる支援者」としての意識
  • ② 持続可能な経営: ICT導入・人材育成・適正報酬のバランスを取る
  • ③ 地域共生社会の実現: 家族・地域・行政が一体となった支援体制

まとめ:テクノロジーと人の力で“持続可能な在宅支援”へ

重度訪問介護は、社会に不可欠な支援でありながら、
制度・人材・経営の課題を抱えています。
しかし、ICT導入・制度改定・地域連携の進展により、
これからの10年で「在宅重度ケアの新しい形」が確立されると期待されています。

現場の声と制度の改善をつなぎ、テクノロジーと人の力で支え合う仕組みを築くことこそ、
重度訪問介護の未来を明るく照らす道です。

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