食事介助は、介護現場で毎日行われる基本ケアのひとつです。
その中で最近、じわじわと話題になっているのが「介助スピード」の問題です。
「時間が押していてつい急いでしまう」「ゆっくりしすぎて途中で疲れてしまう」など、現場では早すぎても遅すぎても困るというジレンマを抱えているスタッフが少なくありません。
この記事では、食事介助のスピードが利用者の誤嚥リスクや尊厳に与える影響を整理し、現場で今日から試せる調整のコツをまとめます。
なぜ今、“食事介助のスピード”が問題視されているのか
- 早すぎる介助。
- 遅すぎる介助。
- 人手不足と時間の制約。
まず、スプーンを次々と口元に運ぶ「早食い介助」は、咀嚼や嚥下が追いつかず誤嚥やムセ込みのリスクを高めます。
一方で、極端に時間がかかる食事は、利用者が途中で疲れてしまい、全量摂取できない・集中が切れて誤嚥リスクが上がるといった別の問題を生みます。
背景には、人手不足や多忙なシフトの中で「この時間までに食事を終わらせないと他のケアが回らない」という、スタッフ側のプレッシャーがあります。
現場で起きている“スピード差”の実態
- スタッフごとのスピード差。
- 声かけのタイミングの違い。
- 見守りと介助の混在。
同じ利用者さんでも、「Aさんに介助してもらうとあっという間に食べ終わる」「Bさんのときは時間がかかる」という介助者によるスピード差がよく見られます。
これは単なる“手の速さ”だけでなく、「飲み込んだのを確認してから次を入れているか」「会話の量」「声かけのタイミング」などの違いが大きく影響しています。
また、同じフロアで「見守り中心の利用者」と「ほぼ全介助の利用者」が混在していると、スタッフの動きが分散し、ペースが乱れやすい環境にもなります。
たとえば、
・飲み込みを待たずに次の一口を運ぶスタッフ。
・「まだ入っていますよ、ゆっくりで大丈夫です」と声をかけて待つスタッフ。
結果として、利用者の表情やムセの回数、食後の疲れ方に大きな差が出ることがあります。
利用者に合った“適正スピード”とは
- 咀嚼と嚥下のリズムを観察。
- 一口量と姿勢の調整。
- 沈黙の時間を大切にする。
適正スピードは、「この秒数が正解」というものではなく、利用者一人ひとりの嚥下機能や疲れやすさによって変わります。
ポイントは、咀嚼にかかる時間・飲み込むまでの間・表情の変化をよく観察することです。
一口量が多すぎると、どうしても飲み込みに時間がかかり、ムセやすくなります。
姿勢も重要で、前かがみ・顎の位置・椅子や車いすの高さを調整することで、同じ時間でも安全性と食べやすさが変わります。
また、介助中の「沈黙の時間」は、利用者が食べ物と向き合い、飲み込むために必要な時間でもあります。「黙っていると気まずいから」と急いで次を運ぶのではなく、その静かな数秒を“必要な時間”として尊重する視点も大切です。
「飲み込むまで5秒待とう」と秒数を測るよりも、
・咀嚼が止まっているか
・のど仏が上下したか
・表情が落ち着いているか
などの変化を見て、次の一口を決めるほうが、個々に合ったペースをつかみやすくなります。
今日からできるスピード調整のコツ
- 「飲み込んでから次」にする声かけ。
- のど元と表情をセットで確認。
- スタッフ同士で基準をそろえる。
まずは、「飲み込んだのを確認してから次の一口を運ぶ」という基本を、声かけで見える形にすることが有効です。
「今の一口、飲み込めましたか?」「ゆっくりで大丈夫ですよ」と一言添えることで、利用者自身も“飲み込む意識”を持ちやすくなります。
観察の際は、口元だけでなくのど元(のど仏)・目線・表情もセットで見ると、飲み込みの完了や疲労のサインに気づきやすくなります。
さらに、「この方はこのくらいのペースがちょうど良い」という感覚を、スタッフ間で共有しておくことも重要です。「だいたい○分でこのくらいの量」など、ざっくりとした目安でもチームで持っておくと、スピード差が小さくなります。
共有のしかた例:
・「○○様は、一口食べてから数秒おいて『もう一口いきますか?』と確認するとスムーズです。」
・「△△様は途中で疲れやすいので、前半はゆっくり、後半は少量で切り上げることも検討しています。」
こうした一言メモを、申し送りや記録に残しておくと、次の担当者もペースを合わせやすくなります。
時間に追われる中で“尊厳”をどう守るか
- 「急がせてしまった」と気づくこと。
- その日の体調でペースを変える意識。
- 全部食べ切ることだけをゴールにしない。
現場では、どうしても「あと○人食事介助が残っている」「この時間までに片づけないと」というプレッシャーがあります。
その中で大切なのは、「今日は早く食べさせすぎたかも」「今日は少しペースを落とせた」と、自分の介助を振り返る視点です。
また、同じ利用者でも、体調・眠気・前のケアの疲れ具合によって、その日の“ちょうどいいペース”は変わります。
「毎回必ず食べきらせること」だけをゴールにせず、安全・尊厳・満足度のバランスを意識した食事介助をチームで目指していくことが、長期的に見て事故防止にもつながります。
「全部食べましょう」ではなく、
「今はここまでにしておきましょうか。少し休んでから様子を見ましょう。」
といった声かけが、利用者の体調を尊重した“引き際の判断”になります。
まとめ:「時間に追われる食事介助」から「命を守る食事介助」へ
- スピードが誤嚥リスクと疲労に直結する。
- 適正ペースは観察と共有でつかむ。
- 一口ごとの“待つ時間”もケアの一部。
食事介助のスピードは、利用者の安全性と尊厳に直結する大切な要素です。
忙しい現場だからこそ、「早さ」だけでなく「ちょうどいいペース」を意識することが求められています。
今日の勤務から、一口ごとに飲み込みを確認することや、利用者に合わせた決めフレーズを使うことなど、小さな工夫を取り入れてみてください。
その積み重ねが、「時間に追われる食事介助」から「命を守り、尊厳を守る食事介助」への一歩につながります。
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飲食・WEB・デザイン・出版など、様々な業界を経てきた現役のケアワーカー。介護にたどり着いたのは、大好きだった祖母の自宅介護がきっかけ。ケアチルでは、現場での視点も交えつつ、これから介護業界に携わろうとしている方、すでに業界にいて岐路に立っている方に向けて、介護業界の情報を分かりやすくお届けします。