
日本の介護業界では、慢性的な人手不足が深刻な社会問題となっています。高齢化が進む中で介護ニーズは増加していますが、それに対して介護職員の数が追いついていません。「働き手が足りない」「離職率が高い」という現場の声は年々強まっており、今後の日本社会にとっても大きな課題です。この記事では、介護業界の人手不足の現状をデータとともに解説し、その原因や今後の対策について詳しく紹介します。
介護業界の人手不足の現状
① 介護人材の需要は年々増加
厚生労働省の推計によると、2025年度には約243万人の介護職員が必要とされています。しかし、実際の確保見込みは約215万人程度にとどまり、約30万人の人手不足が生じると見込まれています。2035年にはこの不足が約68万人規模に拡大するという予測もあります。
つまり、今後10年以内に介護職員が数十万人単位で不足する可能性があり、業界全体が深刻な人材危機に直面しています。
② 求人倍率は全産業平均の約3倍
2025年時点の最新データでは、介護職の有効求人倍率は約3.0倍前後。これは、求職者1人に対して約3件の求人がある状態を意味します。全産業平均(約1.3倍)と比べると、介護業界は極めて人材獲得競争が激しい業種であることが分かります。
とくに地方では職員の確保が難しく、介護施設が新規利用者を受け入れられないケースも増えています。
介護業界が人手不足に陥る主な原因
① 給与・待遇の低さ
介護職の平均年収は約430万円前後とされ、全産業平均(約520万円)よりも低い水準にあります。介護職員処遇改善加算などの制度により徐々に改善されつつありますが、業務量と責任の重さに対して十分な報酬ではないと感じる人も多く、転職や離職の要因となっています。
② 肉体的・精神的な負担
介護の現場では、入浴・排せつ・移乗介助など身体を使う業務が多く、腰痛や疲労による離職が後を絶ちません。また、利用者や家族との関係構築に気を使う精神的負担も大きく、「心身の両面で疲弊しやすい職種」といわれています。
③ 人間関係・職場環境の課題
介護職の離職理由として多いのが人間関係のトラブルです。チームワークが求められる現場で、コミュニケーションの摩擦が生じやすく、職場内の雰囲気が悪化すると定着率が低下します。管理職のマネジメント不足や教育体制の不備も、人材流出を招く一因です。
④ キャリアアップの見通しが立ちにくい
介護業界では、資格取得によるキャリアアップ制度が整備されているものの、実際には昇給・昇格に直結しにくいケースも多く見られます。「長く働いても給与が上がらない」「役職が少ない」と感じる職員が多く、他業種への転職を考える要因となっています。
⑤ 若年層の介護離れ
介護職は「きつい」「給料が安い」というネガティブなイメージが根強く、若者が敬遠しがちです。専門学校の介護福祉士養成課程でも、定員割れが続く地域が多く、若年層の人材流入が減少しています。
人手不足が引き起こす現場への影響
- 入居制限:職員不足により、介護施設が新規利用者を受け入れられない
- 労働時間の増加:少人数で多くの利用者を担当するため、残業や休日出勤が増える
- サービス品質の低下:人手不足により、ケアの質を維持することが難しくなる
- 離職の連鎖:負担が増えた職員がさらに辞めてしまう悪循環
これらが重なることで、現場の疲弊が進み、介護サービス全体の質の低下にもつながっています。
介護人材不足を解消するための主な対策
① 処遇改善による給与アップ
国は「介護職員処遇改善加算」「ベースアップ等支援加算」などを通じて、介護職員の給与引き上げを進めています。これにより、平均で月1〜2万円程度の収入アップが期待できるようになりました。今後も賃金格差を縮める政策が継続される見込みです。
② 働き方改革・業務効率化
ICT(情報通信技術)や介護ロボットの導入により、記録業務や移乗介助などの負担を軽減する動きが進んでいます。特に介護記録アプリや見守りセンサーの普及により、業務の効率化と職員のストレス軽減が期待されています。

飲食・WEB・デザイン・出版など、様々な業界を経てきた現役のケアワーカー。介護にたどり着いたのは、大好きだった祖母の自宅介護がきっかけ。ケアチルでは、現場での視点も交えつつ、これから介護業界に携わろうとしている方、すでに業界にいて岐路に立っている方に向けて、介護業界の情報を分かりやすくお届けします。