排泄介助は、介護現場で毎日のように行われるケアです。
回数が多い分、つい「いつものルーティン」になりやすく、言葉が雑になったり、急かすような声かけになってしまうこともあります。
しかし実際には、声のかけ方ひとつで、協力度・拒否・転倒リスクまで変わることが少なくありません。
この記事では、介護スタッフ目線で“排泄介助の声かけ”を見直し、今日から使える工夫を整理します。
なぜ今、“排泄介助の声かけ”が見直されているのか
- 協力度が声かけで変わる。
- 拒否・不安の背景に言い方がある。
- 羞恥心への配慮が不足しやすい。
同じ利用者さんでも、「声かけが丁寧な人には素直に応じる」というケースはよくあります。
拒否・暴言・不穏が続くとき、「認知症だから」「性格だから」と片づけられがちですが、よく振り返ると声かけのタイミングや言葉選びが影響していることも多いです。
また、排泄は最も羞恥心が揺れやすいケアでもあり、周囲に聞こえる言葉や声の大きさにも注意が必要になっています。
現場で起きている“声かけの差”
- 急いだときに指示が強くなる。
- 説明の長さ・タイミングがバラバラ。
- 周囲に聞こえすぎる声量。
忙しい場面では、どうしても「トイレ行きましょう」「立ちますよ」と指示口調になりがちです。
利用者さん側からすると、理由も分からないまま急に身体を動かされるような印象になり、不安や抵抗感につながることがあります。
また、廊下や食堂などで大きな声で「おトイレ大丈夫ですか?」と声をかけてしまうと、本人の羞恥心を傷つけてしまうこともあります。
「さあトイレ行きますよ」だけだと、“連れて行かれる感覚”になりやすく、
「そろそろお手洗いにご案内してもよいですか?」と一言添えるだけでも、印象は大きく変わります。
利用者の安心感を高める声かけのポイント
- 動作前に必ず予告する。
- 「一緒にやる」スタンスを伝える。
- 否定的な言い方を肯定に言い換える。
- プライバシーに配慮した声の大きさ。
いきなり身体に触れるのではなく、「今から体を横に向けますね」「足を少し曲げますね」と、動作の前に予告することが大切です。
「おむつ替えをします」ではなく、「一緒にきれいにしていきましょうね」と伝えることで、“される側”から“一緒に行うケア”という印象に変えることができます。
否定的な言い方(「漏れちゃってますよ」「汚れちゃってます」)は、「きれいに整えましょう」「楽になるように替えましょう」といった肯定的な表現に言い換えると、受け止めやすくなります。
声量も重要で、周囲に人がいる場所では、耳元で少しボリュームを落として話すなど、プライバシーの配慮が欠かせません。
「おむつ汚れてますよ」
→「少し不快かもしれませんね。今からきれいに整えましょうか。」
この一言の違いだけでも、表情が和らぐことがあります。
今日からできる“声かけの標準化”
- 決めフレーズをつくる。
- 説明を簡潔にそろえる。
- 新人とベテランで言い方を合わせる。
- チームで振り返る場を持つ。
最初の一声を、チームで決めフレーズにしておくだけでも統一感が出ます。
たとえば、「お手洗いにお誘いしてもよい時間ですが、いかがですか」「きれいに整えて、少し楽になりましょうか」など、複数パターンの“安心ワード”を共通言語にしておくと、新人も真似しやすくなります。
説明は、長すぎると不安を煽り、短すぎると伝わらないため、「目的+これからすること」を一文にまとめるのがコツです。
終礼やカンファレンスで「さっきの場面、どんな声かけをしたか」「他にどんな言い方ができたか」を振り返るだけでも、現場全体のボキャブラリーが増えていきます。
共有しやすいフレーズの例:
・「今から体を少し横に向けますね。」
・「一緒に立ち上がる準備をしましょう。」
・「終わったら、楽な姿勢に戻りましょうね。」
こうしたフレーズをホワイトボードやマニュアルに書き出しておくと、新人も使いやすくなります。
“急いでいるとき”こそ声かけを意識する
- 時間がないときほど態度に出やすい。
- 表情・動作の速さもメッセージになる。
- 「あとでちゃんと説明する」一言の効果。
バタバタしている時間帯ほど、声のトーンや表情がきつくなりがちです。
利用者さんは、言葉だけでなく、顔つき・動作の速さ・ため息からも雰囲気を敏感に受け取ります。
どうしても説明しきれないほど急いでいる場合でも、「今少し急いでいますが、あとで落ち着いてご説明しますね」と一言添えるだけで、受け取り方は変わります。
「急いでますから早く立ってください」
→「少し時間が押していて、早めに移動させてくださいね。私がしっかり支えますから安心してください。」
同じ“急ぎ”でも、安心感は大きく変わります。
新人教育に“声かけ”を組み込む
- 技術だけでなく言葉も一緒に教える。
- 先輩のフレーズをその場でメモして共有する。
- ロールプレイで練習する。
新人指導では、つい動き方や手順(手技)に目が向きがちですが、同じくらい声かけの内容・タイミングも重要です。
先輩が実際に使っている言葉を「今の声かけ、よかったから記録しておこう」と共有し、“現場で使える言い回し集”として蓄積していくと、教育の質が上がります。
短時間でもロールプレイ(スタッフ同士で利用者役・介助者役を交代)を行い、言われたときの気持ちを体感することも効果的です。
ロールプレイ時に意識するポイント:
・「自分がその言い方をされてどう感じるか」
・「第三者として聞こえてくる言葉がどう響くか」
この2つを意識するだけで、声かけの質は大きく変わります。
まとめ:手技より“声かけ”が先に変わると現場が変わる
- 排泄介助は羞恥心に配慮が必要なケア。
- 声かけひとつで協力度・安全性が変わる。
- 決めフレーズと振り返りで現場の言葉を整える。
排泄介助の技術や手順ももちろん大切ですが、最初に利用者さんの心に届くのは“声かけ”です。
「どう言えば安心してもらえるか」「自分が言われたらどう感じるか」を意識することで、ケアの受け入れやすさ、安全性、スタッフのストレスも変わってきます。
今日の勤務から、まずは一つだけ声かけを変えてみるところから始めてみませんか。
その小さな一言が、排泄介助の雰囲気と、現場全体の空気を少しずつ変えていきます。
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飲食・WEB・デザイン・出版など、様々な業界を経てきた現役のケアワーカー。介護にたどり着いたのは、大好きだった祖母の自宅介護がきっかけ。ケアチルでは、現場での視点も交えつつ、これから介護業界に携わろうとしている方、すでに業界にいて岐路に立っている方に向けて、介護業界の情報を分かりやすくお届けします。