介護の仕事は、人の生活に最も近い場所で行われます。だからこそ、「ニオイ」はスタッフ・利用者・家族すべてに影響する、見過ごせないテーマです。
排泄・体臭・口腔・住環境・洗濯物・調理など、発生源は多岐にわたり、ストレスやコミュニケーションの難しさにもつながります。
本稿では、現場スタッフ視点で「今できるニオイ対策」を整理し、伝え方・仕組み化までを実務ベースでまとめます。
調査が示す「ニオイはストレス源」という現場の実態
- スタッフの体験率が高い。
- 利用者・家族にも影響。
- “3K”に“くさい”が加わる。
現場アンケートでは、多くのスタッフが勤務中のニオイストレスを自覚しており、家族からの相談・指摘が増えたという声もあります。
「きつい・汚い・危険」に加えて“くさい”が課題として語られる場面が増え、働きやすさ・満足度・採用定着にも波及しています。
発生源別:現場で起きやすい“ニオイの正体”
- 排泄関連。
- 体臭・口腔・皮膚。
- 居室・共用部の生活臭。
- 寝具・衣類・洗濯物。
- 調理・生ごみ・下水まわり。
排泄物や失禁後の衣類・リネン、皮脂・口腔内の菌繁殖、換気不足の居室、乾ききらない洗濯物、厨房やゴミステーション、排水トラップの乾きなど、化学反応・菌・湿度・温度が重なってニオイが増幅します。
対策は“元を断つ”ד拡散させない”ד吸着・中和する”の三本柱で考えるのが基本です。
今日からできる“ニオイ軽減アクション”
- 換気+気流の設計。
- 吸水・洗浄のタイミング。
- 消臭剤は用途別に。
- 布もの管理の徹底。
- 下水・生ごみの封じ込め。
換気は量より流れを意識し、給気→排気の気路を作ります。
失禁時は「拭く前に吸う」で広がりを防ぎ、酵素系洗剤を早めに使うと定着臭を抑制。
消臭剤はアンモニア系/脂肪酸系/硫黄系などターゲット別を準備し、用途外使用を避けます。
リネンは乾燥までが勝負。不完全乾燥=雑菌温床なので、再乾燥or熱風で仕上げます。
排水トラップは定期的に注水、ゴミは密閉→回収頻度増+動線短縮で滞留時間を削減しましょう。
“言いにくい”に向き合う:伝え方のミニ台本
- 本人への配慮。
- 家族への説明。
- チーム内共有。
本人へはにおい=悪口に聞こえない言い回しが必須です。
例:「最近お部屋の空気が重くなりやすいので、いっしょに換気と衣類ケアを見直してもよいですか?」
家族には事実→対策→協力依頼の順で。
例:「午後に衣類の湿りが残りやすい状況です(事実)。乾燥時間の延長と替え着の追加で改善できます(対策)。一着追加のご用意をご相談できますか(依頼)。」
チーム内では原因・場所・時間帯を具体化し、「誰が・何を・いつまでに」で当番化します。
ケアと医療の“境目”で見落としがちなポイント
- 口腔ケア不足。
- 皮膚トラブル。
- 薬剤・脱水・便秘。
口臭・体臭の背景に義歯不適合・舌苔・歯周病があることは多く、歯科・口腔連携の出番です。
皮膚常在菌のバランス崩れ、間擦部位の湿潤、爪周囲の不潔もニオイ化の温床。
薬剤の影響や脱水・便秘は尿・便臭の変化として出やすく、看護・主治医と早めに共有することで根治に近づきます。
“仕組み化”で続ける:現場運用の型
- ゾーニングと物品配置。
- 時間割でのルーティン。
- 記録の標準化。
ニオイ強発生ゾーン(トイレ・汚物室・ゴミ動線・洗濯周り)を地図化し、消臭・清掃・乾燥の物品を“その場”に置きます。
午前・午後・夕方の時間割に「換気ループ・ごみ回収・排水注水・リネン乾燥確認」を組み込み、誰でも回せる日課に。
記録は事実(場所・強度・時間)→対応→結果の3点をチェック式で残し、週1の短時間カンファで傾向を振り返ります。
物品の選び方:コスパと実効性のバランス
- ターゲット別消臭。
- 吸着・中和・マスキング。
- 洗剤・柔軟剤・漂白の組み合わせ。
アンモニア(アルカリ)には弱酸性中和タイプ、脂肪酸臭には界面活性+酵素、硫黄系には酸化系といった具合に、“相性”で選定します。
マスキング一辺倒は逆効果のことも。
洗濯は酵素系(たんぱく分解)→酸素系漂白→充分乾燥の順で、リネン寿命とニオイ抑制のバランスを取ります。
安全・衛生の視点:やってはいけないNG例
- 混ぜる危険。
- 密室での噴霧多用。
- 布への過度残留。
酸性・塩素系・アルカリ性の混用は厳禁です。
密室での大量噴霧は吸入刺激となり得るため、換気と用量遵守を徹底。
布地への薬剤残留は皮膚刺激・二次臭の原因となるため、すすぎ・乾燥で確実に除去します。
教育・新人支援:においケアを“言語化”する
- 観察→報告の練習。
- 物品の“使い分け”表。
- ロールプレイ。
新人には「場所・強度・時間・対応・結果」を30秒で言える練習を。
物品は用途×手順×注意を1枚で配布し、休憩時間にロープレで伝え方を実習します。
におい問題は“恥ずかしさ”と“怒らせたくない”が壁。
だからこそ、台本化=安心の型が効きます。
チェックリスト:週次点検の要点
- 換気経路が確保されているか。
- 高頻度ゾーンの物品が足りているか。
- 洗濯〜乾燥のリードタイムが適正か。
- トラップ・生ごみ・回収頻度は守られているか。
- 記録から時間帯・場所の傾向が読めるか。
点検は“できていない探し”ではなく“仕組みの不具合探し”の姿勢で。
仕組みが直れば、人は動きやすくなります。
まとめ:環境改善は“ケアの質”そのもの
- 元を断つ。
- 拡散させない。
- 中和・吸着で仕上げる。
ニオイ対策は、単なる快適性ではなく、尊厳・安全・働きやすさに直結します。
今日できる小さな一歩は、時間割に換気と回収を入れること、そして伝え方の台本を1枚用意すること。
“においの小さな声”を拾い上げて、現場を優しく、強くしていきましょう。
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飲食・WEB・デザイン・出版など、様々な業界を経てきた現役のケアワーカー。介護にたどり着いたのは、大好きだった祖母の自宅介護がきっかけ。ケアチルでは、現場での視点も交えつつ、これから介護業界に携わろうとしている方、すでに業界にいて岐路に立っている方に向けて、介護業界の情報を分かりやすくお届けします。