重度訪問介護の現場から見るリアル｜利用者ストーリーと支援の実際

「重度訪問介護」という言葉を聞くと、専門的で難しい印象を持つ人も多いかもしれません。
しかしその本質は、重い障がいを持つ方が自宅で“自分らしく生きる”ための支援にあります。
この記事では、重度訪問介護の現場で実際に行われている支援内容や、利用者・職員のリアルな声をもとに、現場の姿を紹介します。

重度訪問介護が支える「日常の尊厳」

重度訪問介護の利用者は、ALS（筋萎縮性側索硬化症）や脊髄損傷などにより、
自力での生活が難しい方が多くを占めます。
彼らが施設ではなく自宅で暮らすためには、24時間体制での見守りと支援が欠かせません。

たとえば、食事・排泄・入浴といった基本的な介助はもちろん、
会話のサポートやテレビのチャンネル操作といった日常の細かな支援も含まれます。
それら一つひとつが、利用者の「当たり前の生活」を守る大切な行為です。

ケース①：ALSを抱える男性利用者Aさんの一日

Aさん（50代・男性）は、ALSにより全身の筋力がほとんど失われ、人工呼吸器を使用して生活しています。
自宅で奥様と過ごしており、重度訪問介護を24時間体制で利用しています。

【1日の支援スケジュール例】

ヘルパーは日中3名・夜間1名体制で交代勤務を行い、
医療的ケアや緊急対応にも迅速に対応しています。
Aさんは「自分の家で過ごせることが何より嬉しい」と語ります。

ケース②：知的障がいを伴う女性利用者Bさんの自立支援

Bさん（40代・女性）は知的障がいと軽度の身体障がいを持ち、一人暮らしをしています。
重度訪問介護を利用し、週5日・日中中心の支援を受けています。

支援内容は、生活リズムを整えるための声かけや掃除・食事の補助など。
Bさんが自分でできることは見守りに留め、あくまで「自立支援」を重視しています。

支援スタッフは、彼女の興味を尊重しながらコミュニケーションを図ります。
「今日は料理したい」「買い物に行きたい」という気持ちを大切にし、
社会参加の機会を増やすことが生活の質向上につながっています。

ケース③：夜間支援の現場に密着

夜間帯の支援は、重度訪問介護の中でも最も緊張感の高い時間帯です。
利用者が眠っている間も、呼吸器や体位、体調の変化を常に観察します。

夜勤担当のヘルパーCさんは言います。

「眠っているように見えても、わずかな体の動きや呼吸音の変化を感じ取る必要があります。
何かあれば即座に対応するため、常に意識を集中させています。」

夜勤中は、利用者の睡眠を妨げないよう静かに動きながら、
2〜3時間おきに体位変換や吸引を行います。
このような支援があるからこそ、利用者は安心して夜を過ごせるのです。

現場職員が感じる「やりがい」と「難しさ」

重度訪問介護の現場では、利用者との深い信頼関係が生まれる一方、
一人対応の重圧や孤独を感じる場面もあります。

職員の声

• 「一対一だからこそ、相手の表情や呼吸の変化に敏感になれた」
• 「利用者の『ありがとう』が何よりの励み」
• 「長時間勤務は大変だけど、自宅で生きる力を支えられるのが誇り」

一方で、「人手不足」「休みの取りづらさ」「責任の重さ」といった悩みも多く、
職員のメンタルケアとチーム支援体制の構築が課題となっています。

支援の質を高めるための工夫

重度訪問介護は、単なる介助ではなく「生活全体のサポート」です。
そのため、現場では以下のような工夫が行われています。

• ケア内容をチーム全体で共有し、支援の一貫性を保つ
• タブレット記録で情報共有を効率化
• 利用者・家族との定期的なミーティングで課題を把握
• 医療職・相談支援専門員・看護師との連携を強化

こうした取り組みを通じて、現場の質と利用者満足度の双方を高めています。

家族が語る「重度訪問介護の存在意義」

在宅介護を続ける家族にとって、重度訪問介護は「生活の支え」そのものです。
Bさんの母親はこう語ります。

「以前は介護の負担で倒れかけました。でも今は、ヘルパーさんが来てくれるおかげで安心して眠れる日が増えました。
娘も“お母さんに迷惑をかけていない”と前向きになりました。」

このように、重度訪問介護は利用者本人だけでなく、家族の精神的支えにもなっています。

重度訪問介護の未来を担う人たちへ

近年、重度訪問介護に携わる若い介護職員も増えています。
「人の役に立ちたい」「社会に貢献したい」と志す人が、
専門研修を経て現場に飛び込むケースが多く見られます。

介護技術だけでなく、利用者の想いを汲み取る力・コミュニケーション能力が重要です。
そのため、事業所では新人教育やメンタルサポートにも力を入れ、
「安心して長く働ける環境づくり」が進められています。

まとめ：重度訪問介護は“命を支える現場”

重度訪問介護は、重い障がいを持つ方にとっての「生きるための支援」です。
身体介助にとどまらず、心のケア・社会参加の支援・家族の安心までを含めた、
総合的な在宅支援の形です。

現場の努力と制度の支えによって、
誰もが自分らしく暮らせる社会に一歩ずつ近づいています。
その最前線で働く重度訪問介護員たちは、まさに“命の現場を支えるプロフェッショナル”です。