介護の現場では、利用者さんから暴言を受けることがあります。
「うるさい」「あっちへ行け」「なんでこんなことするんだ」など、時にはきつい言葉が投げかけられ、心が大きく揺さぶられることもあります。
暴言を受け続けると、疲労・落ち込み・戸惑い・怒りといった感情が積み重なり、
「自分が悪いのかな」「向いていないのかも」と感じてしまう職員も少なくありません。
しかし、暴言の多くは“あなたへの攻撃”ではなく、“本人の不安や苦しさの表れ”です。
その背景を理解し、自分自身を守る視点を持つことが、無理なくケアを続けるためにはとても重要です。
① 暴言は“あなたを否定している”のではなく、不安や恐怖の反応であることが多い
暴言が続くと、自分の人格や仕事ぶりを否定されたように感じて落ち込むことがあります。
しかし、暴言が出る背景には、次のような心理的・身体的な理由が隠れていることが多いです。
- 不安:状況が把握できず混乱している
- 恐怖:身体が思うように動かないことへの恐怖感
- 疲労:体調の悪さ・眠気によるイライラ
- 痛み:身体の不快感が刺激となって言葉が荒くなる
- 認知症状:記憶の混乱・見当識障害
- 羞恥心:介助を受けること自体がストレスになっている
つまり、暴言は“あなた”ではなく、“状況”に向かって出ている反応であることがほとんどです。
この視点を持つことで、言われた言葉をそのまま受け止めすぎず、心の負担を軽減することができます。
② 気持ちを守るためには、“距離感”と“受け止め方”が重要
暴言を受けると、「私が悪かったのかな」と自分を責めてしまう職員も少なくありません。
しかし、必要なのは責任感よりも、自分を守る視点です。
心を守るための考え方:
- 言葉を100%そのまま受け止めない
- 「この方、いま不安が強いんだな」という視点を持つ
- 自分の努力や優しさまで否定されているわけではないと理解する
- “距離を置く時間”をつくることも大切
「この暴言は、本人の不安の声だ」と捉えなおすだけでも、自分の心の揺れが大きく変わります。
③ 一人で抱え込まず、同僚と共有することで気持ちが軽くなる
暴言を受けた直後は、心が敏感になりやすく「自分が弱いのかな」と感じてしまうことがあります。
しかし、暴言対応はチームで向き合うべき問題であり、ひとりで抱え込む必要はありません。
共有によって生まれるメリット:
- 同僚も同じ経験をしていると知ることで気持ちが軽くなる
- より適切な関わり方をチームで相談できる
- 特定スタッフに負担が偏らないよう調整できる
- 暴言が起きやすい時間帯・状況が共有され予防につながる
「つらかった」と言葉にすること自体が心のケアになるため、遠慮せず仲間を頼りましょう。
④ 必要に応じて関わり方・担当変更も検討する
もし特定の職員に対して暴言が集中する場合、
“相性”や“タイミング”の問題である可能性もあります。
その場合は、
- 担当を一時的に調整する
- 関わる時間帯を変える
- 二人体制で対応する
といった、職員を守るための調整も重要です。
「頑張らなきゃいけない」「我慢すべき」ではなく、
自分を守ることが結果的に利用者さんのケアにもつながるという視点を持ちましょう。
⑤ 暴言の背景を探ることで、トラブルの予防にもつながる
暴言が続くときは、背景に次のような要因がないか観察してみましょう。
- 痛み・発熱・便秘などの体調不良
- 眠気・昼夜逆転などリズムの乱れ
- 生活環境が落ち着かない(騒音・照明など)
- 苦手な介助や羞恥心が刺激になっている
- 担当者が変わった・周囲が騒がしいなど環境変化
原因にアプローチできれば、暴言そのものが減る可能性があります。
⑥ 暴言の場面では、言い返さず“安全第一で距離を取る”ことも大切
暴言がエスカレートし、興奮や攻撃性が強まるときは、
介助者が無理に向き合い続ける必要はありません。
安全を守る対応:
- その場を一度離れる
- 別のスタッフへバトンタッチする
- 声かけは短く・低いトーンで・刺激しない
- 距離を保ちながら見守る
暴言対応で最も重要なのは、利用者さんの安全と、スタッフ自身の安全です。
まとめ:暴言は“不安の表れ”。気持ちを守る視点を持ち、チームで支え合うことが大切
暴言は、そのまま受け止めれば心を大きく傷つけます。
しかし、背景にある不安・恐怖・疲労・混乱を理解すると、言葉の衝撃が和らぎ、気持ちを保ちやすくなります。
① 暴言の背景には不安や混乱があることを理解する
② 言葉を100%受け止めず、自分の気持ちを守る
③ 同僚と共有し、感情の負担を軽減する
④ 関わり方・担当変更で自分を守る
⑤ 背景要因を探り、予防につなげる
⑥ エスカレート時は距離を取り、安全を優先する
自分の心を守ることは、“プロとして弱い”ことではなく、続けていくために必要なスキルです。
ケアはチームで行うもの。つらいときは必ず誰かと共有し、安心できる仕事環境を整えていきましょう。
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飲食・WEB・デザイン・出版など、様々な業界を経てきた現役のケアワーカー。介護にたどり着いたのは、大好きだった祖母の自宅介護がきっかけ。ケアチルでは、現場での視点も交えつつ、これから介護業界に携わろうとしている方、すでに業界にいて岐路に立っている方に向けて、介護業界の情報を分かりやすくお届けします。
