介護の仕事を始めたばかりの新人にとって、最初の3か月は人生の中でもっとも学ぶことが多い時期です。利用者さんの名前や顔、性格、生活歴、身体状況を覚えるだけではなく、施設のルール、人間関係、記録の書き方、報告の順番など、頭の中がいっぱいになる要素で溢れています。
この期間は、「覚える量」>「処理能力」になりやすく、ミスをしてしまうのは当然のことです。あなたがもし、“ミスしてしまった…”と悩んでいるなら、それはあなたの能力が低いからではありません。
結論から言えば、新人がつまずくポイントは5種類しかありません。
そして、この記事で紹介する「失敗を減らす型」を知るだけで、あなたの現場での動き方は間違いなく変わります。
この記事は、新人3か月〜1年未満の方、あるいは新人指導を任された先輩スタッフにも役立つ“保存版”として作成しています。現場で明日から使える、実用的で即効性のある内容ばかりです。
1|新人が最初にやりがちなミスは「5種類」しかない
新人は複雑なミスをしているようで、実際は以下の5種類だけ。逆に言えば、この5つのポイントを押さえれば、ミスの8割は自然と減ります。
- ① 声かけのミス(タイミング・言葉選び・説明不足)
- ② 観察力の不足(変化に気づけない・報告できない)
- ③ 介助動作のミス(焦り・準備不足・安全確認不足)
- ④ 記録・報告のミス(伝わらない・漏れが多い)
- ⑤ 人間関係のミス(距離感・相談の仕方・空気の読み違い)
それぞれに共通するのは、能力ではなく「順番」です。
・声かけの順番
・観察の順番
・介助の準備の順番
・報告の順番
これらは技術ではなく“型(パターン)”です。
型を知るだけで、現場の不安は驚くほど軽くなります。
2|ミス①:声かけのタイミング・内容のミス
新人が最もつまずきやすいのが「声かけ」です。
声かけが上手かどうかで、利用者さんの安心感が大きく変わり、介助の成功率も変わります。
■ 新人がよくやる声かけの失敗
- いきなり触ってしまう(予告なし)
- 説明が短すぎる、あるいは長すぎる
- 認知症の方に複雑な言い回しをしてしまう
- 「大丈夫ですか?」を連発して不安を与える
- 「できますよね?」とプレッシャーをかけてしまう
- 沈黙が怖くて早口になる
■ 声かけの“正しい型”(全介助に共通)
声かけは、以下の3ステップを徹底するだけで安定します。
- 確認する
「◯◯さん、いま立てそうですか?」
- 説明する
「これからベッドから車いすに移っていきますね。」
- 実施する
「じゃあ右側から支えます。ゆっくりいきますね。」
これだけです。
■ 認知症の方への声かけは「3つだけ意識」
- 短く(一文は10文字以内)
- ゆっくり(反応を急かさない)
- 肯定的に(否定は混乱を招く)
例:
✕「お風呂の時間だから早く移動しましょう。ここで待っていてください。」
⭕「お風呂です。行きましょう。」
■ 【事例】声かけだけで介助の難易度が変わる
入居者Aさん(認知症・歩行可)。
新人Bさんは説明が少なく、いきなり腕を引いてしまう。
Aさん:「ちょっと怖い…触らないで…」
その後、動きが止まり、移乗がスムーズにいかない。
これは「声かけのミス」が原因です。
先輩が声かけをすると:
「Aさん、トイレ行きませんか?一緒に行きましょう。」
この一言でスムーズに移動。
同じ利用者でも声かけ次第で反応が別人のように変わります。
3|ミス②:観察不足による小さな変化の見落とし
新人の頃は、「何をどう見ればいいの?」という混乱が起きがちです。
しかし、観察力は才能ではなく“見る順番”で決まります。
■ 見逃しやすい3大サイン
- 表情
目に力がない/笑顔が少ない/ぼんやりしている
- 食事量
急に残す量が増えた/咀嚼が遅い/好きな物だけ食べる
- 会話量
返答が遅い/声が弱い/言葉数が減る
■ 観察の型:「全体 → 顔 → 動作 → 声 → 比較」
これは医療介護の基本です。
- 全体を見る:姿勢・雰囲気・ぼーっとしていないか
- 顔を見る:表情・目の動き・口元の動き
- 動作を見る:歩行・立ち上がり・ふらつき
- 声・反応:返事の速度・声の強さ
- 比較:「いつもと違う?」で判断
特に「比較」が最重要です。
新人は“正常”を知らないので、自分の基準で判断しなくてよいのです。
■ 【事例】観察不足が重大事故を招くことも
「いつもより立ち上がりが遅い」
「食事の一口目が進まない」
この小さな変化が、実は発熱・脱水・低血糖などの早期サインのことがあります。
新人でも「いつもと比べる」だけで十分に気づけます。
4|ミス③:介助手順の焦りからくる動作ミス
新人がやってしまう典型的な動作ミスは、次のようなものです。
- ストッパーをかけ忘れる
- いきなり体を動かす
- ベッドの高さを調整しない
- 利用者さんの足元を見ていない
- 周囲の物品が危険な位置にある
■ 焦る原因は「手順」よりも「準備不足」
新人の多くは“やりながら考える”状態になっています。
これは失敗の元です。
介助は「準備が8割」です。
- 移乗前にベッドの高さを調整
- 車いすの位置を最適にする
- ストッパー・フットレスト・足元チェック
- 声かけの流れをイメージする
5|ミス④:記録・報告が不十分で「伝わらない」
新人は記録に苦手意識を持ちがちですが、これは“書き方を知らないだけ”です。
■ 記録の型:「事実 → 状況 → 気づき」
この3つを順番に並べるだけで、誰が読んでも同じ解釈になります。
例:
「昼食を半分残された(事実)。咀嚼が遅く途中で手が止まる様子(状況)。普段は完食されるため変化を感じる(気づき)。」
■ 報告で使える便利フレーズ
- 「いつもより◯◯が違うので報告します。」
- 「緊急ではありませんが、変化があるので相談したいです。」
- 「判断に迷ったため、確認をお願いできますか?」
6|ミス⑤:人間関係の距離感を間違える
介護現場はチームで動きます。だからこそ、人間関係のストレスは仕事の質に直結します。
■ 新人がやりがちな距離感のミス
- 先輩に遠慮しすぎて相談が遅れる
- 話しかけるタイミングが掴めない
- 苦手な先輩に合わせようとして消耗する
- 多職種との会話に緊張してしまう
■ 正しい距離感のつくり方
① 相談は「結論→理由」が基本
例:「◯◯さんが立ち上がりにくそうです。歩行時の危険がありそうなので確認お願いできますか?」
② 苦手な先輩とは“最低限の距離”でOK
無理に仲良くする必要はありません。
③ 多職種は敵ではない。情報共有だけで信頼される
「今日、Aさんの咀嚼がいつもより遅かったです」
これだけ伝えれば十分です。
7|最初の3か月を乗り切る“実践的な”コツ
新人がこの時期を乗り越えるために役立つ具体的なテクニックを紹介します。
■ ① メモは「キーワード方式」で
長文のメモは整理が追いつかず逆効果です。
キーワード3語だけでOK。
例:「食半分」「歩行ゆ慢」「報告必要」
■ ② パターン化する
介護の仕事は“毎日似た流れ”で動いています。動き方をパターンにすると、迷いが激減します。
- 朝のルーティン
- 入浴前の準備リスト
- 移乗時の確認リスト
- 記録の書き方を固定化
■ ③ 先読みの練習をする
先読みとは、「次に何が必要か」を考える力。
時間帯で予測できます:
- 10時:トイレ誘導が増える
- 12時:食事前の声かけ・準備
- 14時:レクリエーション準備
- 16時:夕方の不穏が出やすい時間帯
■ ④ 夜勤は「落ち着き」が最重要
夜勤では環境が変わりやすく、転倒などの事故が起きやすい時間帯です。
- 影や光の変化に注意
- 無理に起こさない
- 不安があれば即相談
まとめ:ミスは成長の入口。恐れずに、前を向いて進もう
新人介護職が最初に経験するミスは、誰もが通る道です。
あなたがもし今、失敗して落ち込んでいるなら、それはあなたが“不器用”なのではなく、ただ“まだ慣れていない”だけ。
この3か月を乗り越えると、見える景色は本当に変わります。
・利用者さんの変化に気づけるようになる
・声かけが自然に出るようになる
・記録や報告が短時間で書ける
・介助の判断がスムーズになる
・先輩に頼られるようになる
あなたは確実に成長しています。
どうか自分を責めず、一歩ずつ前へ進んでください。

飲食・WEB・デザイン・出版など、様々な業界を経てきた現役のケアワーカー。介護にたどり着いたのは、大好きだった祖母の自宅介護がきっかけ。ケアチルでは、現場での視点も交えつつ、これから介護業界に携わろうとしている方、すでに業界にいて岐路に立っている方に向けて、介護業界の情報を分かりやすくお届けします。