高齢者にとって口腔ケアは、誤嚥性肺炎の予防、食欲の維持、生活の質の向上に直結する大切なケアです。しかし、実際の現場では「嫌がって口を開けてくれない」「警戒して手を噛まれそうになる」など、拒否の強いケースが少なくありません。特に認知症のある方は、刺激に敏感だったり、口の中に触れられることに恐怖を感じやすいため、慎重な関わりが求められます。
嫌がるからといって避けてしまうと、口腔内の汚れが蓄積して感染症リスクが高まり、食事量の低下・脱水・さらには誤嚥の危険性にもつながります。だからこそ、無理やり行うのではなく、“安心できるプロセスを丁寧に積み重ねること”が重要です。
ここでは、口腔ケアを嫌がる利用者さんに対して、すぐに現場で使える具体的なステップと、拒否を和らげるコツをくわしく紹介します。新人職員でも取り入れやすい手順でまとめているため、介助に不安のある方にも役立つ内容です。
① いきなり口に触れない。“安心のタッチ”から始める
口腔ケアの拒否の多くは、「突然口の中に手を入れられる」という恐怖が原因です。認知症がある場合は、何をされるのか理解が追いつかず、反射的に防御行動が出ることもあります。
そのため、最初のステップは“口ではなく口元の外側”から触れることです。
- 頬に手を添えて軽くタッチする
- 唇の上を軽くなで、刺激に慣れてもらう
- 口角にスポンジブラシをそっと近づける
この段階で利用者さんに「痛いことはされない」「急に入れられない」という安心感を持ってもらえると、その後の口腔ケアの成功率が大きく上がります。焦らず、まずは“怖くない時間”を作ることが第一歩です。
② 動作を必ず“予告”しながら進める
恐怖心の強い利用者さんは、予測できない動きに非常に敏感です。そこで重要なのが、「今から何をするか」を一つずつ伝える予告です。
声かけの例:
- 「いま、ほっぺを触りますね」
- 「これからスポンジを少しだけ入れますよ」
- 「右側をきれいにしますね」
- 「水を含ませますね。ゆっくりいきましょう」
動作より先に声をかける習慣がつくと、利用者さんは「わからない刺激」を受けずに済むため、口を開けてくれやすくなります。
逆に、無言で行うと恐怖が強まり、拒否が悪化する原因になります。
③ スポンジブラシ→小ブラシ→歯ブラシの“段階的ケア”が効果的
いきなり歯ブラシを口に入れようとすると、違和感が強く拒否につながります。そこで、刺激が少ない道具から少しずつ慣らしていく段階的方法が有効です。
おすすめの段階は以下の通りです。
- ① スポンジブラシ:いちばん受け入れやすい。口内の保湿や汚れ取りに使う。
- ② 小さめの歯ブラシ:刺激はあるが、軽いブラッシングが可能。
- ③ 通常の歯ブラシ:慣れてきたら細かい磨き上げに使用。
いきなり完璧を目指す必要はなく、まずは「口の中に道具を入れられる」こと自体をゴールにします。
④ 終わったあとの“楽しみ”をセットにすると受け入れやすい
嫌がる利用者さんには、ケア後の“ご褒美”がとても効果的です。
これは、「口腔ケア=嫌なこと」から「終わったら良いことがある」への気持ちの切り替えにつながります。
ケア後の楽しみの例:
- お茶・水などの飲み物を提供する
- 好きなテレビ番組を少し見てもらう
- 気持ちよくできたことを言葉でしっかり褒める
- 口腔内の爽快感を感じてもらうためのうがい
とくに水分摂取とセットにする方法は、脱水予防にもつながるため一石二鳥。
利用者さんの成功体験にもなり、次回以降の協力が得やすくなります。
⑤ 嫌がるときは「やり方」ではなく「タイミング」を変える
その日の体調や気分によって、ケアを受け入れやすい時間帯は変わります。
拒否が強いときは、無理に続けず一度時間を置くことが大切です。
タイミング変更の例:
- 食後すぐではなく、少し休んでから行う
- 午前中など、落ち着きやすい時間帯に実施
- 相性の良いスタッフにバトンタッチする
無理やり進めると恐怖心が強まって次回の拒否が悪化するため、「今日はここまでにしよう」と引く勇気も大切です。
⑥ 拒否の裏に“痛み”や“口腔トラブル”が隠れている場合も
口腔ケアの拒否は、心理的なものだけでなく、痛みや不快感が原因のことも多いです。
チェックしたいポイント:
- 口内炎や傷ついた歯茎
- 義歯の不適合(擦れて痛い)
- 歯のぐらつきや虫歯の痛み
- 強い口腔乾燥による痛み
- 噛み締めや緊張からくる疲労
こうした理由があると、触られること自体が苦痛になり、どんなに丁寧にやっても拒否が消えません。
症状に応じて保湿ケアやうがい、歯科受診につなげる判断も必要になります。
まとめ:口腔ケアは“安心づくり”から始めるのが成功への近道
口腔ケアを嫌がる利用者さんは、決してわがままなのではなく、「怖い」「痛い」「分からない」といった強い不安を感じています。
その不安を和らげるためには、技術よりもまず関わり方の工夫が大切です。
① 外側のタッチから始めて安心を作る
② 一つひとつ動作を“予告”する
③ 刺激の少ない道具から段階的にケア
④ ケア後の楽しみとセットにして協力を得る
⑤ 拒否が強ければタイミングを変える
⑥ 裏にある痛み・不調も確認する
これらを丁寧に組み合わせることで、利用者さんが安心して口腔ケアを受けられる環境が整い、ケアの質も大きく向上します。
口腔ケアは毎日の積み重ねだからこそ、“無理のないやり方”をスタッフ全員で共有することがとても重要です。
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飲食・WEB・デザイン・出版など、様々な業界を経てきた現役のケアワーカー。介護にたどり着いたのは、大好きだった祖母の自宅介護がきっかけ。ケアチルでは、現場での視点も交えつつ、これから介護業界に携わろうとしている方、すでに業界にいて岐路に立っている方に向けて、介護業界の情報を分かりやすくお届けします。