介護の現場では、利用者の「こだわりが強い場面」に出会うことがあります。
たとえば、「この服じゃなきゃ嫌」「いつもの席に座りたい」「決まった順番じゃないと落ち着かない」など。
一見わがままのように感じる行動でも、背景には不安・混乱・認知症状・生活歴など、本人なりの理由が隠れていることが多いのです。
新人スタッフの多くが戸惑うのが、
「否定すると怒られる…」
「どう言い換えればいいか分からない…」
という対応の難しさ。
この記事では、“こだわりが強いとき”に役立つ関わり方のコツと、安心につながる声かけ方法、観察ポイントを詳しく紹介します。
① まずは“否定しない”。気持ちを受け止めるのが最優先
こだわりが強まる場面で最もやってはいけないのが、否定や訂正から入ることです。
例:
「違いますよ、そのやり方じゃないです」
「その服は今日は無理ですよ」
「また同じこと言ってるじゃないですか」
本人は「自分が否定された」と感じやすく、反発・怒り・不安につながります。
まずは受容的な言葉で気持ちを受け止めることが大切です。
受け止めの例:
- 「そう思ったんですね」
- 「その席が落ち着くんですね」
- 「いつものやり方が好きなんですね」
このひと声だけで、利用者の緊張がすっと和らぐことがあります。
② 安心材料や代替案を“そっと提示”する
受け入れの言葉でこちらの姿勢が伝わったら、次は安心材料や代替案を静かに提案します。
強く誘導しようとすると、さらに反発を呼ぶため、あくまで「選べる形」で提示するのがコツです。
代替案の出し方の例:
- 「この席も明るくて、〇〇さんが好きだった景色が見えますよ」
- 「この服も似た色で、着心地はいつもと同じですよ」
- 「まず準備だけ一緒にしてみませんか?」
重要なのは、「〇〇してください」ではなく
“安心を補う言葉”+“選択肢” をセットで示すこと。
これにより、本人のプライドを傷つけず、納得して行動につながることが多くなります。
③ 背景には「不安」や「認知症状」が隠れていることが多い
強いこだわりは、単なる性格ではなく、心の不安定さのサインであることが少なくありません。
考えられる背景:
- 認知症による“見通しの悪さ”
- 新しい環境に対する不安
- 「失敗したくない」という怖さ
- 生活歴の中で大切にしてきた習慣
- 体調不良や精神的ストレス
つまり、“こだわり”は本人なりの防衛反応であり、安心したいというサインでもあります。
④ 観察と記録を行い、“こだわりのパターン”をつかむ
こだわり対応を安定させるには、「いつ・どんな場面で起こりやすいか」を把握することが重要です。
観察ポイント:
- どんな場面でこだわりが強くなる?(食事・入浴・席・服装など)
- 特定の人・時間帯で起こりやすい?
- 体調や表情の変化はある?
- 声かけや対応のどの部分に反応している?
記録に残しておくことで、チームで情報を共有し、本人に合う対応の統一がしやすくなります。
⑤ チームで統一した関わり方が“安心”につながる
こだわりの対応でよくあるのが、スタッフによって関わり方がバラバラで、
本人が混乱してしまうケースです。
チーム全員で、「こういう時はこう関わる」という方向性をそろえることが重要。
例:
- 席は“このパターン”で提案する
- 服装にこだわる方には“選択肢を示す”対応を統一
- 入浴の拒否が出る方は“安心の言葉がけ”を先に入れる
関わりが統一されると、本人にとっても「この施設ではいつも同じように接してくれる」という安心感が育ち、こだわりの強さが徐々に落ち着いていきます。
⑥ 急ぎの場面でも“焦らせない声かけ”がポイント
急ぎの対応が必要なときこそ、利用者のこだわりは強く出やすくなります。
例えば、
- 「早くしてください」
- 「今は無理です」
といった言葉は、かえって混乱や反発を招きがちです。
忙しい時ほど、ゆっくり・短く・穏やかに。
- 「急ぎだけど、一緒にやっていきましょうね」
- 「まずこれだけお願いしますね」
たった数秒の声かけの違いが、本人の反応に大きく影響します。
まとめ:こだわりは“不安のサイン”。受容と安心が基本
利用者のこだわりは、単なるわがままではなく、
「安心したい」「自分を守りたい」という気持ちが形になったものです。
だからこそ、最初に必要なのは否定することではなく、
受け止めて安心につなげる関わり方。
そして、安心材料の提示・代替案の提案、背景の理解、記録・共有──
これらの積み重ねで、利用者との信頼関係が育ち、こだわりの強さも自然とやわらいでいきます。
焦らず、一歩ずつ。
利用者一人ひとりに寄り添った対応が、安心して過ごせる生活環境につながります。
🤝「人間関係・待遇・働き方」に悩んでいる方へ

「今の職場、ちょっと合わないかも…」と感じたら、まずは話をしてみませんか?介護職専門のアドバイザーが、あなたの希望や悩みを丁寧に聞き取り、ぴったりの職場や非公開求人をご紹介します。
待遇交渉や面接の調整、就業後のフォローまで、すべてのサポートが完全無料。 職場の雰囲気や人間関係など、ひとりでは分かりづらい情報も事前に確認できます。転職するかどうか迷っている段階でも大丈夫。相談を通して自分の強みや、より良い働き方のヒントが見えてくるはずです。
※ すべてのサービスを0円でご利用いただけます。ご相談内容は外部に共有されません。

飲食・WEB・デザイン・出版など、様々な業界を経てきた現役のケアワーカー。介護にたどり着いたのは、大好きだった祖母の自宅介護がきっかけ。ケアチルでは、現場での視点も交えつつ、これから介護業界に携わろうとしている方、すでに業界にいて岐路に立っている方に向けて、介護業界の情報を分かりやすくお届けします。